健診は産む予定の病院ではなく先生の診療所で行われるそうです。
明るく清潔なオフィスはこぢんまりとしていて
歯医者さんのよう。
待ち合い室にはスナックやクッキーの入った大きなカゴと
飲料水が用意してあって娘は大喜びです。
看護婦さんたちもニコニコしていて感じがいいし、待ち時間もなく
診察室に通されました。
うん、ここまでは予想以上にいい感じ。
先生は30代半ばくらい、ブロンドのロングヘアの
綺麗な女医さんです。
やや弱々しい握手をして会話スタート。
案の定・・・・やっぱり先生の英語、
ほとんどわからない・・・・
早くてわかりにくいと言われるニューヨーカーの英語、
ただでさえ日常会話で苦労しているのに、聞き慣れない専門用語が
頻出しているようで単語さえも聞き取れません。
何を聞き返せばいいのかさえわからないまま会話は終わり、
誘導されるがままに別室に移って診察台に横になります。
横たわりながら、モニターを確認。
すぐに自分のお腹の中に確かに人のかたちの
ようなものが見えました。
「わ!本当にいたんですね。良かった!」
と歓声をあげると
「そうね。心音も確認できたしよかったわね」
と先生も静かに笑いながら答えてくれました。
診察が終わり
「質問はない?」と聞かれ、
「はい、だいじょうぶです。サンキュー」
と曖昧な笑みを浮かべながら日本人的な応答をしてしまった自分。
あー全然ダメだ、これじゃ。
自分自身のためにも、この子のためにも、
先生との関係性づくりのためにも、
次はちゃんと予習してから来ないと。
その後、採血すると言われ移った隣の部屋では大きな体をゆらした
ピンクのマニキュアの看護婦さんが、ブス、ブスっと容赦なく腕に
注射器を挿入します。
1本、2本、3本・・・・すごいスピードで連打し、
抜き取った血液のスティックがずらっと並べられていきます。
5本目の注射を終えたあたりで
「あの・・・すみません、何本打つんでしょうか?」
と、遠慮がちに聞くと
「もうすぐ終わるわよ」
と言われましたが、結局何本打たれたのか不明なまま、
フラフラになって診療所を後にしたのでした。
駅中の売店ですぐさまオレンジジュースを買って一気飲みすると
なんとなく我にかえってきました。
あれ?予定日聞いったっけ?
そういえば「おめでとうございます」
みたいな言葉もなかったな・・・
ぼーっとする頭で家路につき、それでもまずは無事妊娠が
確認できたことを家族に報告し、初回は終了しました。
さて、2週間後。
聞きたいことをメモして2回目の健診に挑みます。
「35歳以上は採血するだけで、
かなり早い段階で性別がわかるよ」
と、以前友人が言っていたことが
気になっていたのでこれを聞くつもりでした。
ダウン症などの染色体異常の確率を検査するもの、
という本来の目的も日本語サイトなどでばっちり予習したので
今回は先生の話もなんとなくですが、わかるような気がします。
でも、やっぱり半分くらいはわからない。
この検査、日本ではここ最近(2013年4月)始まったばかりで
「新型出生前診断」と言うそうです。
これまでリスクがあるとされていた羊水検査と違い、
より安全な採血だけで赤ちゃんの染色体や遺伝子を調べられる
ということで話題になっているとのこと。
一方で、陽性確定になった多くの妊婦さんたちが
中絶を希望するいう結果が波紋を呼んだりもしています。
そういうわけで、日本では、条件を満たした人のみ、
限られた病院でしか受けることが出来ないそうです。
採血した血はアメリカや中国に送って検査するそうで
費用は20万円ほど。
この新型出生前診断は、アメリカでも最近(2012年頃)始まった
新しいものですが、日本ほど特別感はないような気がします。
少なくともここニューヨークにおいては。
昨年からニューヨーク州では35歳以下の妊婦さんでも希望すれば
保険適用外で検査を受けられるようになったというくらい広く
普及していてなんとなく日本のように導入に慎重な印象は受けません。
おそらく実際は国内でも様々議論がなされているのだと思いますが。
でも、確かに陽性と出た場合のことを考えてしまうと、
妊婦の心境としては受診を迷うところです。
そんなとってもセンシティブな検査なのですが、
先生はさらっと説明して
「受けることを強くおすすめします」
というようなことを言っておしまい。
そしてその日は、診察後また採血の部屋に通されました。
先生の言っていることがわからなければ、
看護婦さんに確認してみようと、今回はほっそりとした
真っ赤なマニュキュアのインド系の看護婦さんに
「ところでダウン症確率の検査というのは
いつやるんですか?」
と尋ねてみました。すると、
「Now!(今よ!)」
と、ブスっと注射針を刺されて、あっさり採血完了。
「え?これ?」
受診前に一筆サインか何かしたり、
「ご家族と相談してどうするか考えて下さいね」
みたいなのがあるのかと。
いや、もしかしたら初回の時にそういうことを説明されていたのか?
結果は全て自己責任のこの国で、こんなにも受身で、
こんなにも身を任せっぱなしで本当に大丈夫か、自分?
またしても自分の英語力のなさにヘコみながら2回目の健診終了。
尚、このテストは様々な種類があるようですが、
今回私が受けた(MaterniT21)の診断費用は$2,800(約33万円)と、
日本より高額でした。幸いにも保険が適用され1万円程度の自己負担
で済みましたが。
保険の適用内であること、元々アメリカのメーカーが開発した診断で、
検査の環境が整備されていることなども、ここで広く普及している理由
かもしれません。
そして・・・・
ウワサ通り、妊娠10数週目という早期の段階で結果が出ました。
染色体異常の確率は低いとのこと。
まずは一安心。
性器の形で最初、男の子と言われていた2011年生まれの長女と違い、
今回は染色体診断というほぼ間違いのない方法で女の子でした。
ちなみに、またいつものようにお金のお話ですが・・(笑)
後日、保険の請求明細を確認してみるとなんと
初回の総額は$4,200(約50万円)でした。
超音波検査も1回あたり10万円前後かかっています。
これまでほぼ保険でカバーされ、数万円の自己負担で
済んでいますがもし保険がなかったらと思うとかなり怖い・・・。
英語は難ありでも、苦労して保険適用内の先生を探して
心底良かった、、、!
それにしても民間の保険に入っていなくとも、
区から無料の受診券が、わざわざ自宅まで郵送されてきた
東京とはなんという違いでしょう。
おまけに日本では出産一時金なるものもあるし。
これまで、日本は子供を産みにくい国なのだと
勝手にそう思い込んでいました。
でも、しかし!
”産む”ということに限って言えば(”育てる”となるとまた別ですが)
もしかしたら日本はもう十分に子供を産みやすい環境が整備されて
いるのかもしれないなぁ、と、ニューヨークでの妊婦健診を経験し
そんなことを思うのでした。